「やりたいことが分からない」という学生の一言に、どう返していますか?
進路面談でよく耳にする「やりたいことが分からない」という言葉。
焦って選択肢を絞らせたくなる場面ですが、どのように声をかけるかによって、学生が次の一歩を考えやすくなることがあります。
この記事では、心理学の知見をもとに、先生ができる関わり方を一緒に考えていきます。
「やりたいことが分からない」のは、珍しいことではない
学生の時点で、将来の仕事や進路がはっきり決まっている人ばかりではありません。
進路について迷いながら、自分の興味や得意なことを少しずつ理解していくことも、成長の過程の一つでしょう。
「やりたいことが分からない」という言葉を、そのまま問題として受け取る必要はないのかもしれません。
大切なのは、「まだ決められていないこと」をすぐに問題と捉えるのではなく、何が分からず、どこで立ち止まっているのかを一緒に整理することです。
たとえば、興味のある分野が思い浮かばないのか、選択肢は見えているけれど選べないのか、周囲の期待との間で迷っているのか。
一口に「分からない」と言っても、その中身は学生によってさまざまでしょう。
もちろん、迷いが長く続き、なかなか行動に移せない状態が続く場合には、より丁寧な支援が必要になることもあります。
ただ、進路について迷うこと自体は珍しいことではありません。
まずは「まだ決められていないこと」を否定せず、その学生がどこで立ち止まっているのかを落ち着いて捉えることが、関わりの出発点になるでしょう。
なぜ自己理解が進路支援の土台になるのかは、なぜ今、学生に「自己分析」が必要なのかでも触れています。
「決めさせる」より、小さな行動につなげる
進路の迷いにどう関わるかを考えるうえで、参考になるキャリア心理学の考え方があります。
クランボルツらが提唱した「計画された偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」です。
これは、将来を最初から一つに決めるのではなく、さまざまな経験や行動を通じて生まれる予期しない機会を、キャリア形成に活かしていくという考え方です。
進路やキャリアは、最初に立てた計画だけで決まるものではありません。
さまざまな経験や人との出会いを通じて、当初は考えていなかった選択肢が見えてくることもあります。
この理論が興味深いのは、偶然をただ待つのではなく、自ら行動することで新しい機会を生み出し、訪れた機会を進路やキャリアに活かしていくと考える点です。
そうした機会を活かすために、いくつかの姿勢が役立つと考えられています。
好奇心を持って新しいことに触れること、うまくいかなくても続けてみること、状況に応じて考えを変えること、新しい機会を前向きに捉えること、そして結果が分からなくても小さな一歩を踏み出すことです。
「まだ何も決まっていない」時期は、こうした行動を通じて自分の興味の輪郭が見えてくる時期でもあるのでしょう。
進路指導の場面では、「早く一つに決めさせる」ことよりも、「小さく試せる機会を増やす」関わりが、この考え方と重なります。
たとえば、次のような声かけが考えられます。
「少しでも気になる仕事や分野はある?」
「まずは話を聞いたり、調べたりするところから始めてみようか」
「今すぐ一つに決めなくても、実際に見てから考えてもいいよ」
「合わないと分かることも、進路を考える大事な材料になるよ」
ここで気をつけたいのは、先生自身の思い込みで学生の進路を狭めないことです。
「この子はおとなしいから事務職が合うだろう」といった見立ては、無意識のうちに選択肢を絞ってしまうことがあります。
学生が自分から動きたくなるような問いかけを心がけると、関わり方も変わってくるでしょう。
検査結果を「やりたいこと探し」の材料にする
「やりたいことが分からない」学生にとって、自分だけでは気づきにくい傾向を整理する適性検査の結果は、考えるきっかけの一つになります。
ただし、その使い方には少し注意が必要でしょう。
結果は「答え」ではなく「考える材料」です。
「あなたはこういうタイプだから、この仕事が向いている」と結論を手渡してしまうと、かえって学生の視野を狭めてしまうことがあります。
そうではなく、「こういう傾向があるのかもしれない。では、どんな環境でなら力を発揮しやすいだろう」と、本人と一緒に考えるための鏡として使うことが大切です。
面談でも、検査結果を先に結論としないことを心がけたいものです。
学生本人の経験や考えも、結果とは別の情報として丁寧に聴く。
そのうえで両方を照らし合わせながら、興味を持てそうな環境や、次に試せそうなことを一緒に考えていく。
結果と本人の話が食い違って見えても、どちらかを正解と決める必要はありません。
「なぜそう見えるのだろう」と一緒に考えることで、学生自身も自分を別の角度から捉えやすくなります。
検査結果は、進路を決めるための答えではなく、学生が行動を始めるための入口です。
その材料をきっかけに、学生が「まずはこれを試してみよう」と思えたなら、進路指導の一歩として十分でしょう。
まとめ
最後に、要点を整理します。
「やりたいことが分からない」のは珍しいことではなく、まずは何が分からないのかを一緒に整理することが出発点になります。
進路は最初から一つに決めるものではなく、小さな行動や経験を通じて見えてくることも多いため、「決めさせる」より「試せる機会を増やす」関わりが学生を後押しします。
そして検査結果は、進路の答えではなく、学生が自分を知り、次の一歩を考えるための材料として使うことが大切です。
学生が焦らず、自分のペースで進路を探していけるように。
先生の落ち着いた声かけも、その大切な支えの一つになるでしょう。
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